児童文学概論

ヤングアダルトジャンルを読み、感想を示します。個人の駄メモです。ネタバレあり要注意。

牢の中の貴婦人

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設定を把握しようとしているうちに最後まで来て、やっと状況を飲み込めたと思ったらあっさり終わった。

絶妙な配分である。まったくロマンチックさがなく、どこまでも現実的だ。

気付いたら幽閉されていて、記憶が曖昧で周りの状況すらわからない。そもそも知りたくても聞くことのできる、接触できる人間が限られているからパズルのピースをひとつひとつ手に入れて、どうにかくっつかないか気長に試し続けるしかない。

だからこそ、苦労して最後に状況やいま何が起きているかを知った際には、とんでもないご褒美や衝撃が待ち受けていると期待してしまう。しかし、現実はむしろ逆だ。閉ざされた空間で、ひとりで考えていると夢を見るようになるのかもしれない。私はどこかの国のお姫さまで、王子様と出会い、ここから私を助け出してくれると。

そんな女性の中にある少女のような気持ちを少し皮肉るように、うまく利用して物語に仕上げ、今では真似できないようなクラシックだけど新しい切り口の物語に仕上がっている。

主人公と同じく、読者までもが大事なキーワードを逃さないように、むしろ主人公より先に状況を理解してやろうと躍起になって本を読み進めるだろう。だからこそ尚更あっというまに終わってしまうのかもしれない。

ヨーロッパの修道院などでは昔から男児に対して性的な対象として見ることがあった。そういうキャラクターがこの本の中にも出てくるが、ロリコンともゲイとも違う、むしろ最も純粋で美しいことのように描かれている。いま読むととても不思議だが、それによりそのキャラクターの性格が一気に際立ち、輪郭を持つのが面白い。

作者であるダイアナ・ウィンジョーンズは日本だとハウルの動く城の作者としての印象がとても強いが、毎回異なるタイプの物語を巧みに描く。

それにしても囚われていた主人公は一体どこの誰だったのだろう。