天空の少年ニコロ 3 龍とダイヤモンド
ネタバレします。
天空の少年ニコロ三部作のラストを飾る締めの巻。読み終わった感想としては長かった。天空の村から始まり、中国を旅しながら龍を探し、ラストは世界を救うというどこかで見たような展開に。そう、これはカイ・マイヤーさんの前作である「海賊ジョリーの冒険」と同じオチなのだ。
言葉にも原初の混沌という前作のキーワードとも言える単語が今回も登場するし、最後は男の子と女の子が力を合わせてラスボスをやっつけて世界を救った。
面白いは面白いけど違うオチや話を見たかった。とりあえず、やはりキャラクターはとても魅力的だった。違和感がなく、ブレないし、徐々に魅力が増すように繊細に描かれていくのはさすがの一言。ただ、月姫だけは作者自身もどう扱っていいか分からなかったような気がする。どうも1人感情がブレるというか、はまっていない感じが最後まであった。それはきっと逆に最初からキャラクターを意識し過ぎたせいだろう。中国のいわゆる仙女をトレースしすぎたせいで、その枠から抜け抱けず、ドイツ人であるカイ・マイヤーさんからしたら崩せなくなった可能性がある。他のキャラは架空の要素が大きかったので自由に動き回れたのに対し、月姫だけはつまらない感じだった。
一キャラクターだし、なにをそんなに責めるのかと思われるかもしれないが、もちろん理由はある。それはニコロと呪いによって愛に落ちるという重要なファクターを握り続けたからだ。1巻からのこの要素がまさか3巻までひっぱられ、最後はあっけなく終わった。さっさと月姫を殺すなり、真実の愛として叶ったりすればいいのに、長々と性描写を想像されるシーンまで交えながらズルズル進む。本当に気持ち悪い。実に不快だ。セフレみたいな感じだった。
童貞くんが綺麗なお姉さんと魔法の力で両思いになり、初めてエッチして舞い上がり、魔法が解けるのを必死で認めない感じで3巻が終わった。その間に龍が出てきて、巨人が出てきて、盤古がエーテルに支配されて、世界が救われた。
もうこんな作品は2度と書いてくれるなとミザリー的に作者を監禁して説教したい気分だ。
もちろんそれは冗談だか、個人的には魅力的な世界観に、良いキャラクターを作れていただけにストーリーがさらに伴っていれば文句なく最高の作品になれたのにと残念でならない。
ただ、最後の難しい世界の終末や混沌とした地獄のような戦場を描いたシーンはさすがに素晴らしかった。荒削りながらも全ての伏線も基本的には回収したし、同時進行にいくつものストーリーを進める手腕は賞賛されるべき。
また、今回の作品で興味深かったのは、1巻以降、普通の村人が一切登場しなかったことだ。ずっと名前のあるキャラクターたちだけで話が進んでいった。1巻目にはあったニコロと普通の民の会話や龍の居場所を探る様子なんかはとても物語をリアルなものに感じさせてくれたし、ハラハラもした。もっと一般人も巻き込みながら展開できればより奥深い物語になったのではないだろうか。
それにしても最後あっけなかった。ラスボスである盤古は世界を滅ぼす天地創造主だったはずが、何の意思も感じられない大きめの巨人でしかなかった。また、心臓が体の割に小さすぎるのには呆れるよりも笑った。本当にあれが最適だったのか疑問しかない。ゲームのFF6みたいに1度世界を崩壊させて、そこから盤古を倒して世界を救うという展開や、24的に世界崩壊まであと残り3時間とかそういう軸の中で展開させても面白かったんじゃないだろうか。
フェイキンのキャラクターは最後まで呪いが解けなかった、いや本人の意思で解くのをやめたのだろう。最後、小道を登るときにつまずき、罵しる声が聞こえたのは、以前と変わらず動きづらい着ぐるみ姿だったからに違いない。