不思議を売る男
ジェラルディン・マコックランが書き、本国イギリスで1988年に出版され、1998年に日本語版が発売されたこの本。
カーネギー賞とガーディアン賞を同時受賞したすごい作品だ。
原題は「A PACK OF LIES」なので、だいぶ味付けされた邦題となっている。
中身は不思議な短編を1つのストーリーの括りの中で見せて行くというもの。
お婆ちゃんが、孫に夜な夜な不思議な物語を聞かせるというフォーマットに近い。ただ違うのは、夜な夜なではなく、骨董屋のなかで、来たお客さんにそれを話して買ってもらうという中で、その周りにもストーリーが展開されることだ。
確かに目新しい感じはするが、いまいちハマらなかった。
不思議な男が物語を語って、客が引き込まれてその商品を買うという連続に途中て飽きてしまうからだ。どんでん返しや逆境に立つことが一度もなかった。
しかも最後に不思議な男が店を去る理由も不明だし、何者だったのかも曖昧で、ただ作者がオチを逃げたとしか思えない。
読書の想像に任せますというのは良い時もあれば絶対に使ってはいけない時もある。今回がまさにその時だ。
前振りや伏線を最後にすべて回収すべきだった。そういう本だと思ったし、読み進めるにつれて自然と気持ちが高まった。
1988年の当時では評価されたかもしれないが、今読んで普遍的な面白さがあるかと聞かれたらNOだろう。
不思議な男MCCはもっと不気味に描くべきだった。もっと敵か味方か、人間か悪魔なのか分からないようにもっと謎を散りばめて、伏線を張るべきだった。
中途半端に人間的で優しく、これでは普通のそこら辺にいる販売員さんである。
何もMCCの正体に期待もドキドキワクワクしなかった。興味を惹かれない。外見もありがちな風変わりさで、中途半端だ。
これは、この作者の性根の優しさが、作品に出ているのだろう。すごく優しくて、児童書で誰も傷つけず温かい気持ちになってほしいという気持ちが込められているのはよくわかる。
ただ、それが読み物としての完成度を下げている気がする。
情景描写はとても上手いので他にも作者の作品を読んで見たいと思うが、キャラクターにこれ以上共感できなければ、私には向かないということだろう。