児童文学概論

ヤングアダルトジャンルを読み、感想を示します。個人の駄メモです。ネタバレあり要注意。

海賊ジョリーの冒険 三部作の感想文

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海賊ジョリーの冒険 3部作
ついに読み終えました。

今の感想は、ほっと胸をなでおろしているところです。最初の1巻目を読み始めた時にはこんなに大きな話になるとは思わなかったし、こんなにハラハラドキドキされられるとも思っていませんでした。

正直、最後はもう海賊ジョリーの冒険ってタイトルに合ってないです。

海賊感があったのは最初の1巻目くらいで、その後のエレニウム辺りからはミズスマシの力と運命、世界を救えるかというビッグな話にずっとフォーカスされていたので、誰もジョリーのことを海賊として見てなかったし読者も忘れていたはずでしょう。

むしろタイトルで相当損している図書だと強く思いました。

なんでこんな子供っぽいタイトルになってしまったのか。30代である私なんかからすると、いい歳したおっさんが海賊ジョリーの冒険という本を手に取るのは多少勇気がいります。

ガンバの冒険とか、トムソーヤの冒険とか海賊、冒険って子供が好きそうな単純なワードに、ジョリーっていう女の子の名前って本当にターゲット間違えすぎてます。

いや、もしかしたらターゲットはもともと中学生向けになっていたのかも。それはそれで問題で、実際小、中学生が読むには難しい内容だと思います。せめて高校生以上からじゃないと想像力が追いつかないかもしれません。

こんなにも想像力豊かで、人との関係性や心理戦、戦術、謎解き、恐ろしくも心を惹きつける深海での光景…日本人には絶対に描けないようなセンスと発想で練りこまれた内容だからです。

ひょっこりひょうたん島的なかわいい感じじゃなく、映画パイレーツオブカリビアンのあのダークさをもった、ラムの酒臭い息遣いが常に漂う作品でした。

作者のカイ・マイヤーさんはパイレーツオブカリビアンを参考にしているか、もしくは映画からインスピレーションを受けているかもしれませんね。

展開全てが脳内で映像化しながら読めて、不思議と本を読み終えたのに、1本の大作映画を見終えたような感覚です。この作品は映画化したらとんでもない名作になるポテンシャルを秘めてます。

悪役として登場する人食い族の王である海賊タイロンがエレニウム津波が押し寄せて死んだと思っていたら、ウォーカーやソールダッドの前に現れて戦うシーンなんかはハリウッド的なベタ展開ですが、逆にあまり児童書では見なかった演出な気がします。

またグリフィンが最後にマールシュトロームの大渦のもとにエイに乗って行き、渦の消滅後に水面を歩くムンクを見つける場面なんかも視覚を意識した演出だったと思います。

最後にアイナはどうなったか気になりますね。またクライマックスでのマールシュトローム内部にいたマーレ・テレブロズム(暗黒の海)からの怪物が何だったのかなど謎も多いです。

大鯨のジャスコニウスに飲み込まれたクラバウターの主で、クラゲと同化した2人目のミズスマシの少年は結構あっけなく死にすぎな気がしますし、物語のキッカケとなったバロンたちへの毒蜘蛛の罠、そしてタイロン側への寝返りの理由などもう少し描かれても良かったかなと…

海底でアイナがジョリーをクラバウターの巣に閉じ込めた理由もイマイチ曖昧だし、クラバウターの母はあそこから出られたのか、犬の頭を持つブエナベントゥーレは何者なのか、木食い虫はエレニウムのもつ不思議な力があったからこそ蛇神になったのか、そもそも初めて会った時にウォーカーたちが木食い虫だとすぐ気づいたということはよくいる存在なのか、普通ならサナギの後どうなっていたのか、蛇神になっても実はまだ変態の途中とされていたけど完全体はどんな姿なのか…など色々気になります。

原初の父も結局死に損でしたしね。死ぬ意味まったくなかった…自分の作った世界が壊れるのを見たくないと言って死んだけど、エレニウムの神々を復活させる前にムンクとジョリーがミッションを成功させて世界の危機を退けてしまいましたからね。

あと30分待っていたら死ぬという選択を取らずに済んだのに…

ただ、世界を救う物語はたくさんあるだろうけど、決して大きな国同士が争う必要はなく、カリブ海という小さなフィールドでも想像力を巡らせればそのようなテーマが成立するんだととても感心させられました。

もちろん、エレニウムという魔法がつまったとんでもない場所にいくことで、これまでの実際の世界とは違う、一気に大きな物語が展開でき、信憑性も違和感なく持たせ続けれたんだと思いますが。

ミズスマシという水面を歩けるという特殊能力で、最初はこれがどんなことに適用でき、どんな形で海賊として物語が進むんだろうとワクワクしていたら、実際水面を歩けることで活躍する場面はあまりなく、なんなら後半は水中で息ができて目も効くというどんでん返しの能力がメインでした。

けどミズスマシってワードは最高に素敵な和訳だったと思います。本場のドイツではなんて言葉だったんでしょうね。

ミズスマシってのはもちろん水中にいる虫の名前です。つまり最初からジョリーやムンクが水中に適応できることが暗示されていたということです。だって、ただ水面を歩くだけならアメンボと呼んだ方がふさわしいですからね。

ちなみにドイツではベストセラーになったそうで、なのに日本ではなんでこんなにも売れてないのか不思議です。

きっとタイトルのせいでしょうね。もったいない。

ミズスマシが操れる貝の魔法はキーワードながら最後までよくわからずじまいでしたが、ムンクとジョリーの関係性はずっとハラハラさせられ、作者の掌の上で転がされましたね。

グリフィンは嫌いでしたね〜チャラついたウザいこいつさえいなければ、もっと事がスムーズに進むし、ジョリーとムンクがミッションに集中できるのにと…。

まんまと作者の思う壺でしょうが、早く死なないかなと思っていました。ただ、最後の方には男気溢れるキャラに成長したのでジョリーとの仲も認めざるを得ませんでしたが。

あと、この本にはドラえもんのび太の海底鬼岩城の要素もあったと思います。海底でのクラバウターとの緊迫した雰囲気なんか近いような。

本当に心が出来上がってないとトラウマになるくらいのダークな世界観です。

人間が持つ水への恐怖心。これは原始時代より体温を奪われて死なないようにという人類の本能からきていているものでもあります。

さらに足のつかない、底の見えない海の底への恐怖心。冷たい海に大きな未知の生物が潜んでいて、引きづり込まれるんじゃないかという想像を巧みに利用し、全体的にずっと妙なリアリティがありました。

夜の海に好んで入る人を知っていますか?誰も禁止されたわけじゃなくても夜の海に入ってはいけない、危険だと本能的に知っています。

ジョリーとムンクは最後、その夜の海の底をずっと進むことになります。その恐怖心は計り知れないでしょう。

ストーリーや登場人物は嘘だとわかっているんだけど、そこに描かれている恐怖心は本物と全く同じ。

だからずっとドキドキして海底にいるように冷たく息苦しいんです。

夜、寝る前に読んでいると、暗さからの恐怖と冬の寒さで、本当に体が冷たくなるので日中に温かい部屋で読むことをオススメします。

ただ、もしホラー映画を部屋をあえて暗くして見たいというタイプの人なら、雨の日の夜に読むとより臨場感が味わえ、この本の魅力を最大限楽しみことができるでしょう。

これまで児童文学が好きで、20年以上色んな本を読んできましたが、これは本当に自信を持ってオススメしたい一冊です。

作者カイ・マイヤーさんのダークさと想像力がここまでハマった作品は他にはないと思います。ドキドキワクワク…そんなベタなフレーズが本当にぴったりな作品です。三部作なのでたっぷり楽しめ、尻つぼみせず面白さは加速します。面白さは約束します。

騙されたと思って是非大人の方、読んでもらいたいです。