児童文学概論

ヤングアダルトジャンルを読み、感想を示します。個人の駄メモです。ネタバレあり要注意。

天空の少年ニコロ 消えた龍王の謎

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お馴染みドイツのカイ・マイヤーさんの2010年頃に出した作品。


相変わらず広い世界観。ダークさとファンタジー、歴史や文化を交えながら答えに向かって物語が展開されます

舞台は中国。ファンタジーの舞台になるのはとても珍しいですよね。ムーラン的な感じで選んだんでしょうか。これまでカイ・マイヤー作品を読んできた身としては新鮮で、いや最初は少し拒絶反応さえ示しましたが、読み進めるうちに全然慣れましたね。舞台や背景こそ中国であるけど、結局そこから唯一無二の世界観ですべてを包んでしまっているから。

さながら同じドイツのミヒャエル・エンデさんのはてしない物語に出てくるファンタジーエン国のよう。存在しそうで存在し得ない風景や出来事が次々と起こります。

龍の吐く息がエーテルという名のラスボスだという突拍子のない明かされた事実。魔法やドラゴン?それはヨーロッパ的な考えなのでしょう。ここでは仙術や龍に取って代わります。
そして、作者が得意とする二つの物語が同時進行します。海賊ジョリーの冒険でも海底をいくムンクとジョリー編、地上で戦うエレニウム編が同時に進行し、その時間軸がどのように重なっているのかドキドキワクワクしながら考える楽しみがありました。今回も天空の街編と地上で冒険するニコロチームが交互に描かれ、もどかしくもどんどん真相に迫っていくカタルシスがあります。カイ・マイヤーさんは本当にテンポよく物語を展開させます。そこには翻訳する遠山明子さんの力添えも大きいことは明白です。
神々の台詞は哲学的で、ややもすれば理解できないため読むのをやめてしまう気もしますが、そこは理解できなくていいのです。登場人物たちも理解できず、混乱しながらも前に進むしかないから。読んでいる人も本の中の登場人物も同時に学びながら先に進むので、ダレることがありません。そうやって常に核となる秘密を明かしながらもまだまだ謎を残し、むしろ謎が増えていく様子は流石の一言。知れば知るほど謎が増えるって感覚は本当に好奇心を刺激するし、早く答えを知りたくてページをめくる手が止まりません。

中国が舞台ということで、恐ろしく強力な敵として満州族が出てきます。たしかに私自身、中国で出会った満州の人たちは身体も大きく強そうでしたが、心優しいイメージだったので、今回敵役になってることに驚きました。しかも、もののけ姫ばりのシャーマンやるろうに剣心ばりの蓮爪というアホほど強いボスキャラが出てきたり…恐ろしくも魅力的なキャラクターがしっかり物語を支えてます。

龍に呪いをかけられて自身に関する記憶を消され、龍の着ぐるみを脱げなくなったフェイキン。妙に博識な様子から間違いなく、物語の鍵を握っているとみていいでしょう。一体正体は何者なんでしょう。仙人?本物の龍?なんか前の海賊ジョリーの冒険のときのフナクイムシみたいですね。前はフナクイムシが繭になり翼竜となりましたが、今回もピンチの瞬間に真の姿となって皆を助けるのでしょうか。早く2巻を読みたいですね。

また天空の街を作り上げた霊気エーテルポンプの仕組みにも秘密が隠されてる気がします。仙人ですらその存在を知らなかったという天空の街。そんな神業を謎の技術をもってして実現させたレオナルドとは一体何者なのか。なぜそんなことが必要だったのか。龍との密な関係がきっと隠されているのでしょう。さながらノアの箱舟のようでもありますからね。

しかし、カイ・マイヤーさんはホント三角関係好きだなあ。前回もそうで、まんまとヒヤヒヤさせられました。今回もそう。もはやニコロは恋愛のためなら天空の民すらどうでもいいし、他のことなんて全て投げ打ってもいいとすら思っています。しかも、その流れの作り方が上手い。運命にも似た逃れられない呪いのような恋心。この先、どうなるか楽しみですね。

西洋のドラゴンと中国の龍って同じものを指すはずだけど、実はまったく違うような気がします。中国で龍は神であり、尊敬するもの。西洋のドラゴンは悪者で正義に退治されるものだったり…。魔法と仙術、仙人と魔法使い、モンスターと化け物、剣士とナイト…同じ言葉でも指ししめす先には西洋と東洋では存在や意味も変わってきます。そうしたことに気づいているからカイ・マイヤーさんは常に舞台を大きく変えながらもブレずにファンタジーが描けているんだと思います。
こちらも海賊ジョリーの冒険同様、全三部作となっています。作者は割と長編になればなるほどペンがのるタイプなので、恐らく次の2巻は爆発的に面白いはず!起承転結の起承が一巻で、次は転の番だから。