児童文学概論

ヤングアダルトジャンルを読み、感想を示します。個人の駄メモです。ネタバレあり要注意。

ゴーストドラム

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不思議な緊張感が漂う作品。古の禁断の書を読んでいるかのような独特のオーラを感じる。

物語もとても整然とされていて普通に面白い。ぶっ飛んでいるという感じではなく、昔話にリアリティのある残酷さや自然の強さが加わったような内容だ。

ストーリーはとても単純である。ある国の人を信じない独裁的な王様が妻をとり、跡取りとなる男が生まれる。王様は自分の座を奪われることを恐れてその子を塔に幽閉してしまう。力のある魔女が王子を見つけて助け出し、弟子にする。魔女を憎む別の魔法使いが王様の後に王位に就いた女王に話を持ちかけて王子を連れ戻し、魔女を殺す罠を仕掛ける。まんまとその通りになるが、死んだ世界から魔女は帰ってきて復讐を果たす。そんな感じだ。

タイトルのゴーストドラムというアイテムが確かに物語の鍵となる。また魔法は人の耳に聞こえてこそ、効果を発するため、爆音でかき消せたり、耳を塞いでいたら魔法は効かないなど、まさに言霊を表している点も現代的だ。

多少、もっとこの世界で魔法を見たかったし、魔女が活躍する痛快な場面を楽しみたかったという不満もあるが、これはこれでクラシックでバランス的には問題ないだろう。

物語の鍵を握るアイテムとして氷のリンゴが出てくるが、これは実際にアメリカの寒い地域でゴーストアップルという名前で実在するのも面白い。リンゴの周りを氷が覆い、リンゴが朽ち落ちた後に氷だけがリンゴの形のまま残るという仕組みなのだが、昔の人が見たら魔法のりんごに思うはずだ。

永遠の命を授ける氷のりんご。とても夢のある話だ。