児童文学概論

ヤングアダルトジャンルを読み、感想を示します。個人の駄メモです。ネタバレあり要注意。

魔法の館にやとわれて

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お馴染みのダイアナ・ウィンジョーンズさんの作品。原題は「Conrad's Fate」つまりコンラッドの運命ということ。


かなり邦題ではコテコテにアレンジされていて残念だが、中身は抜群に面白かった。

主人公のコンラッドは悪い業を背負っているとおじさんから言われ、このままでは今年中に苦しみながら死ぬと予言されてしまう。さらに、それを回避するには山の上の謎のストーラリー館に潜り込み、運命の相手を殺さなければならないと言われて、それに従って従僕見習いとして館に雇ってもらうことになるというストーリーだ。

謎の魔法に満ちた館にスパイのように潜入し、色んな謎が明かされていくワクワク感と、千と千尋の神隠し的な見習いとして成長していく様も同時に楽しめる本当によくできた作品だ。

友達やゲストとして潜入するのではなく、見習いというのが本当にいい設定で、いびってきたり大きな態度をとるイヤな先輩もいれば、厳しくも優しく先輩もいたり、時代背景や国、年齢など全て自分とは違うのにとても共感できてリアルに感じられるのがすごい。

特に最初の館への道中で出会い、一緒に雇われることになるクリストファーとのやりとりや友情が生まれていく様子はとても懐かしく、微笑ましい。クリストファーの謎も徐々に明らかになっていき、そこがわかってしまうと一気に関心が下がってしまうものだが、謎を知ってからがさらに面白い。

つまり最初から最後までずっと面白い。最後には1番の謎がどんでん返しとして待っており、ほぼ完璧な作品と言えるのはではないだろうか。

ひとつ文句があるとすれば、面白すぎて、読み終わってしまうのが悲しいこと。もっともっと長くてもいい、どうでもいい日常を、奥方様に給仕して、メイド長に怒られて、馬屋を見学して、ロバート卿の荷物を運んで、みんなで食事をしてと、ずっとこの世界観の話をみていたかった。

ファッションにも注目だ。貴族に使える見習いの格好はタイツをはいて縦のストライプのシャツと日本人からすると派手だが、とてもオシャレだ。当時は本当にこんな服をみんな着ていたんだろう。そんな知識を得られることも、想像を掻き立てることも素晴らしい。

大魔法使いクレストマンシーシリーズの時系列的には2作目の今作。

最初からだと、クリストファーの魔法の旅、魔法の館にやとわれて、魔女と暮せば、トニーノの歌う魔法、キャットとトニーノの魂泥棒、キャオル・オニールの百番目の夢、キャットと魔法の卵の順番に時系列が進むことになる。

シリーズものはどこかで似たり寄ったり、パターン化されて面白くなくなりがちだが、ダイアナさんの描く作品はどれも個性的で作品ごとにまったく違う世界観が生み出される。これからも面白い作品をまだまだ読めることを期待せざるを得ない。