児童文学概論

ヤングアダルトジャンルを読み、感想を示します。個人の駄メモです。ネタバレあり要注意。

見習い物語 上

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イギリスの作家レオン・ガーフィールドさんの短編集。1982年に書かれたものだが、作品自体18世紀のイギリスを舞台に描かれているので、さらに古い感じがする。

むしろ本当に18世紀に書かれた本を読んでいるような錯覚に陥るほど、当時の生活ぶりや街並み、風習が生き生きとに描かれている。

短編集なのに、短編同士が繋がっており、人物や街並みが他の章でも出てくるなど工夫というか遊び心もある。

読んでいて思ったのは、当時のロンドンは地獄のようだなということ。

文化が発展し始めたばかりで人々は欲に満ちており、街は汚くて暗く、貧富の差が生まれ、生活するのがやっとだ。今の世界とは全く違う、荒廃した世界。

生きるのがやっとで、仕事の種類もなく、産まれたときの身分から上がることができない。

この本では、そんな見習いたちが主人公だ。当時は7年間見習いとして耐えて働いてやっと一人前になるという習慣があったそうだ。その間はただひたすらに耐えて、生き抜くということだ。

今で言うところのブラック企業だろうか。

日本でも3年間は勤めてようやく一人前みたいに言われることもあるので、年数で技量を測る点は一緒だ。

多少日本の職人の世界にもまだそういう部分があるとは思うが、労働環境や法律の遵守に特に注目が集まっている現代ではなかなか厳しいところだろう。

ただ、やはり職人の世界では親方の下について弟子として働きながら腕や技を磨くというのはとても大事なことで、1日8時間勤務で後はプライベートの時間を大切にする、なんて甘いことは言ってられない。

それだけ見習いになるというのはプライベートを捨てて、どんな辛いことにも耐えるという覚悟が必要なことだし、当時なら尚更辞めてしまったら他に食べて行くこともできないので、歯を食いしばってでも耐え抜くしかなかったはずだ。

そんな見習いの気持ちを逆手に取って、辞めないし逆らわないというのを良いことに無茶苦茶する親方もいたのだろう。

本当に一か八かの世界だ。やはり、そんな世界でも、そこを天国にするか地獄にするかはそこにいる人次第だ。

きっと今の時代にも当てはまることだろう。

とても読みやすく、古臭さもない良作だと思う。特に、当時の暮らしを知れてとても勉強になるので一度読んでみると良いだろう。