児童文学概論

ヤングアダルトジャンルを読み、感想を示します。個人の駄メモです。ネタバレあり要注意。

顔をなくした少年

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「穴」で知られるアメリカのルイス・サッカーさんの作品。

正直、胸をえぐられるような、嫌な記憶が蘇るような作品である。

子供から大人に成長する過程で、誰もが通るジレンマというか、もがきがとてもリアルに描かれている。

日本人でも共感できる人は多いのではないだろうか。アメリカか舞台の作品なのに、どこの国でも結局同じなんだなと思った。

小学校の時にずっと一緒に登校して、学校が終われば一緒に帰り、どっちかの家で遊んで…みたいに仲の良かった親友が、中学に上がると急に目立つタイプのちょっと悪いやつらと話すようになり、そいつらのグループに入る信頼を得るために、ダサい昔の友達を避けたり、いじめたりする。

そんな経験、みんなあるはずだし、自分はなくても見てきたはずだ。

アメリカ的にいえば、ダサいオタクかクールなやつかのふたつだ。

主人公はダサいやつってことではないが、クールではないタイプ。

ティーンネージャーのドラマを見ているような1冊だ。

だから、とてもイライラする。不甲斐ない昔の自分を見ているような気持ちになり、ガツンと嫌なことは嫌だってハッキリ言ってやれ!と叫びたくなるだろう。

まるで映画のバックトゥーザフューチャーで、いじめっ子たちに逆らえない主人公を見ているのと同じ不快な気分だ。

当然、その不快な気持ちは最後にスカッとさせるための長い長いフリである。

この作品でも最後はスッキリさせてくれるのだが、男女の恋も絡んでいるので、とても羨ましいラストになっている。

ある意味これこそがファンタジーとも言える、男性ならきっと羨むエンディングがイライラの最後に待っている。

途中まで、これは何を読まされているのだろうと思うはずだ。

タイトルにある「顔をなくした」という意味は、平たく言えば、面目をなくしたということである。

周りに合わせたり、トラブルを避けたり、自分に言い訳ばかりしていたら、顔をなくす、つまり自分がいなくなるのと同じなんだと気づく。

今生きている人でも、思い当たる人は多いのではないだろうか。そんな人は一度この本を読んでみてもいいかもしれない。

ずっと自分を持って、強靭に生きてきたという人は読まなくていいが、そんな人はきっと少ないだろう。