歩く
「穴」(1998年)で一躍有名になったルイス・サッカーさんの作品で、穴シリーズの3作目であるこの「歩く」(2007年)。
「穴」は出た当時すぐに読み、あまりの面白さに衝撃を受けた作品だ。ただ、その後、映画化もされたが、それも見ず、最近まで思い出すこともなかった。
たまたま目について読み始めたのがこの「歩く」なのだが、また全然違った話だけど面白かった。シリーズなので、「穴」で出てきた登場人物や設定も少し出てくるので、やはり「穴」は読んでいた方がより楽しめる。
素晴らしいのが、主人公や周りの人たちがとても人間的に優しく、素直なので、安心して子供に読んでもらえる点だ。ただし、恋愛要素も入ってくるので、多少の英語3文字くらいは我慢しなければならないが、言葉だけでそういう変なシーンもないので安心してほしい。
この本を少年院に置いておけば、多少は真面目に生きようと改心する人もいるかもしれない。アメリカのリアルな退屈さと非現実的なスターや一部の人だけが受けられるセレブな生活が、巧みに混じり合い。魔法やドラゴンが出てこなくても、それが現代的なファンタジーとして成立しているのがお見事だ。
「穴」にあった棘はなく、とにかく素直な作品である。
ボディガードであり、歌姫であるカイラから最低に嫌われているフレッドは、実はカイラの本当の父親で、ずっと近くで見守っていたというオチなのかなとも思ったがどうなのだろう。
また、何年後かに主人公とカイラが出会い、一緒になれるといいなと不思議と思ってしまう珍しい作品だ。普通、男女の恋愛が描かれると、別れてくれて良かったとなぜか思ってしまうものだが、この作品は違う。
語感やテンポもよく、感情にも常に共感でき、とても読みやすい良作だ。
次は読み飛ばした「穴」シリーズ2作目である「道」を改めてちゃんと読もうと思った。