児童文学概論

ヤングアダルトジャンルを読み、感想を示します。個人の駄メモです。ネタバレあり要注意。

ダークホルムの闇の君

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まず読み終わった感想を言わせて欲しい。なんて読み難い本なんだ。


内容や設定などは他に見たことないほど斬新で、さすがダイアナ・ウィン・ジョーンズさんといった感じなのだが、日本語訳があり得ない角度で酷い。きっとあえて日本でもあまり日常で使われていない言葉を選んでチョイスしているようだが、難しすぎる。私自身、色々と古い本も読んできたがこんなにも言葉を理解するのが難しく、読み進めるのに不安を感じたことはない。まるで日本語に訳された古文のようだ。

さらに、理解を阻む要因となっているのが、登場人物の多さだ。挿絵もほとんどない状況で、最初から覚えるのが不可能なほど普通の人間ではない、様々な特徴や肩書きをもつキャラクターが続々と登場する。誰が誰だかメモをとって早見表を作らなければ名前と人物を一致させることは至難の技である。主人公であるダークの子供がグリフィンだということを理解するまでにしばらくの時間を要したくらいだ。どのキャラクターが重要で頻出頻度が高く、名前を覚えなければならないのか。そこの見定めにはセンスが必要になってくる。逆にここまでユーザーフレンドリーじゃない設定は海外だから許されるのだろう。日本だと編集者が指摘して人数が減るか、名前を出さないか、覚えやすい名前に変えるか、何らかの処置がされると思われる。

また、難しいことに、内容がビジネス社会の仕組みについても含まれている。つまり、商いの仕組みを軸にして物語が展開されるので、社会人なら自ずと理解できるが、小中学生にはまず何が起こっているのか、何が問題なのか、事態に気付けないだろう。

だからこそ、この3つの難点を超えたときに得られるこの本だけの面白さは格別だ。読み終えたときに、妙な達成感があり、高揚感すら感じた。

まずは難解な登場人物の名前とどこの誰なのかを覚えることさえできれば、すっと読み進められるだろう。オススメする。

この本で印象的だったのは、会話のうまさだ。主人公である魔術師ダークの子供達の話す言葉は、まるで目の前で見ているかのごとく自然で、気持ちいいほどすっと入ってくる。わざとらしさがまったくなく、相手への深い感情まで言葉から感じられるくらいだった。これはむしろ翻訳者の手柄かもしれないが。

もしも魔法世界への体験ツアーに行けたらという風変わりなテーマを、テンポよく、良いラインの伏線を張りながら、会話で状況を表して展開する。最後はこのツアーを何とかやり遂げて終わりなんだろうと、読者は最初から分かって読んでいる。つまりゴールはひとつなのだ。だからこそ、飽きずにずっと緊張感を保つには、次々と事件や衝突が起きないと緊張感が保てない。実に設定で満足せず、よく考えぬかれた作品である。

残念なのは、間違いなく小学生にはこの本は読めないことだ。