仮面の街
なぜか千と千尋の神隠しを彷彿とさせる作品。
魔女のグラバは湯婆婆そっくりだし、ロウニーは千のようだ。仮面というものを物語のフックにしながらテンポ良く物語は進み、表現は難解で読み辛いけどサクサクと読み進んでしまう。
なかなか良作だと思う。本作の題材である仮面というと映画「マスク」を思い出す。人は皆、社会の中で見えない仮面をかぶり、TPOに合わせて自分を演じているという台詞が脳をよぎる。
ゴブリンの劇団に、街のどこかに生きているが見つけることのできない行方不明のロウニーの兄であるロウワンの探索、街に迫り来る洪水、先輩だがグラバを裏切るヴァスの想いなど、同時進行で様々なポイントが行き交う。
てんこ盛りだが、キレイに一本の線上に紡がれている。アメリカで教師をしていた作者ウィリアム・アレグザンダー初の長編デビュー作にしていきなり全米図書賞を獲得したのも頷ける。
初めてにしては出来過ぎなくらいストーリーが良く、特に世界観は抜群に素晴らしい。申し訳ないが、作者がアメリカ人だとは信じられない。まだこうした真面目なクラシックだが面白い作品をかける大人がアメリカにいたなんて、その事実だけでも実に信じ難く愉快だ。
作中のゴブリンは一体どんな存在なのか、どうしてゴブリンになったのか、不老不死なのか、色々気になる。
スピンオフとして「影なき者の歌」という作品もあるようなのでぜひ読んでみたいと思う。