児童文学概論

ヤングアダルトジャンルを読み、感想を示します。個人の駄メモです。ネタバレあり要注意。

七つの封印 4 黒い月の魔女

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カイ・マイヤーさんによる七つの封印シリーズ第4弾。相変わらずの読みやすさだか、絶体絶命からのドンデン返しにはそろそろ飽きてきた。

やはり魔女や魔物と戦うのに、ただの特殊能力のない子どもでは知恵にも限界がある。敵は子どもだろうと殺そうと本気で向かってきているのに、逃げ回るだけでは面白みにもかける。

漫画ワンピースのごとく、敵が近づいて腕の印が反応した際くらいは、敵を倒す能力が発動してもいい気がする。そのほうが、ずっとワクワクするだろう。

もちろん、名探偵コナンのごとく、力はなくとも知恵で解決してもいいが、毎回思いついたプランが失敗することなく上手くいくだけでは芸がなさすぎる。

舞台であるドイツでは月のクレーターの模様がウサギではなく、薪を背負った男に見えるとされているそうで、その薪男と主人公たちは今回戦うことになる。

イデアや発想、展開は見事だ。このシリーズは児童向けのため、文字数がかなり少ない。相当テンポよく飛ばしていかないと書きたいことが良いバランスで尺に収まり切らなくなる。

毎回、物語の導入には驚かされる。自然な流れで無理なく読者に設定を受け入れさせる。そのままノンストップでラストまで駆け抜けるのであっという間に読み終わる。

ただ、先ほども言った通り、そのパターンに頼りすぎだ。軽さをどこまで払拭し、深められるのか。今後に期待だ。

歩く

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「穴」(1998年)で一躍有名になったルイス・サッカーさんの作品で、穴シリーズの3作目であるこの「歩く」(2007年)。

「穴」は出た当時すぐに読み、あまりの面白さに衝撃を受けた作品だ。ただ、その後、映画化もされたが、それも見ず、最近まで思い出すこともなかった。

たまたま目について読み始めたのがこの「歩く」なのだが、また全然違った話だけど面白かった。シリーズなので、「穴」で出てきた登場人物や設定も少し出てくるので、やはり「穴」は読んでいた方がより楽しめる。

素晴らしいのが、主人公や周りの人たちがとても人間的に優しく、素直なので、安心して子供に読んでもらえる点だ。ただし、恋愛要素も入ってくるので、多少の英語3文字くらいは我慢しなければならないが、言葉だけでそういう変なシーンもないので安心してほしい。

この本を少年院に置いておけば、多少は真面目に生きようと改心する人もいるかもしれない。アメリカのリアルな退屈さと非現実的なスターや一部の人だけが受けられるセレブな生活が、巧みに混じり合い。魔法やドラゴンが出てこなくても、それが現代的なファンタジーとして成立しているのがお見事だ。

「穴」にあった棘はなく、とにかく素直な作品である。

ボディガードであり、歌姫であるカイラから最低に嫌われているフレッドは、実はカイラの本当の父親で、ずっと近くで見守っていたというオチなのかなとも思ったがどうなのだろう。

また、何年後かに主人公とカイラが出会い、一緒になれるといいなと不思議と思ってしまう珍しい作品だ。普通、男女の恋愛が描かれると、別れてくれて良かったとなぜか思ってしまうものだが、この作品は違う。

語感やテンポもよく、感情にも常に共感でき、とても読みやすい良作だ。

次は読み飛ばした「穴」シリーズ2作目である「道」を改めてちゃんと読もうと思った。

魔空の森 ヘックスウッド

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ざっくり言うと、ある森の周辺で起きた異変から物語が始まり、次々と意外な事実が明らかになってくるという話。


世界を救うわけではないが、悪いやつをやっつけて新しいまともなやつに取って代わるという感じ。

正直、かなり読みにくかった。物語の進行スピードがとても遅く、さらに時空までネジ曲がったり、人の記憶まで操られるものだから、何が事実なのかわからないまま、読者はその情報を一生懸命抱えて、たらい回しにされるからたまったものじゃない。

さすがに最後の方は、情報を抱えるのをやめて、もう読んでいるだけに近いときもあった。それくらいたっぷり時間をかけて読まなければならいほどボリュームが多い。

伏線もラストに明らかになる大きなものを除いてほぼないので、あまり考えずに読んでも問題ない。

レイナー一族が何なのか、結局あまり描かれなかった。これは読者に想像して欲しくてあえて情報を少なくしていたと思うが、個人的には少なすぎた。もっとそこを膨らませないと、戦う意味や守る意味が薄っぺらく感じた。あっけなく死にすぎだし、なぜそうしていたのかが本当に不明だ。ほぼ、村人1みたいに何の特性も恐怖も感じられない様は、ある意味斬新だった。

逆に言うと、だからこそ面白いのかもしれない。日本人ならきっとそこをある程度きっちり丁寧に書いてしまうだろう。あくまでファンタジーであり、小難しい設定や理由なんて必要ないのだ。

子供の頃、頭の中で想像して物語をただただ楽しくつないでいっていた感覚。まさにそれがファンタジーの原点だと言えよう。

頭の中で王様から騎士、庶民に奴隷を作り出し、それらが次々と自分に語りかけてきて、1人だけど頭の中で会話していた経験のある人は多いはずだ。それがこの物語の肝となっている。

騎士ならドラゴンを倒すし、城にはキレイなお姫様がいて王子様を待っている、独裁的な権力を握るやつは倒すべき悪者であり、人間はちっぽけで森や自然は大きく尊い。そこに理由なんてない。ルールだからだ。

魔空の森というタイトルに相応しく、読む者の頭の中までねじ曲げられる。そんな作品を描けるダイアナさんはさすがだと思う。ただし、ワクワク感は全くなく、作業ゲームに近い地味な作品といえる。

牢の中の貴婦人

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設定を把握しようとしているうちに最後まで来て、やっと状況を飲み込めたと思ったらあっさり終わった。

絶妙な配分である。まったくロマンチックさがなく、どこまでも現実的だ。

気付いたら幽閉されていて、記憶が曖昧で周りの状況すらわからない。そもそも知りたくても聞くことのできる、接触できる人間が限られているからパズルのピースをひとつひとつ手に入れて、どうにかくっつかないか気長に試し続けるしかない。

だからこそ、苦労して最後に状況やいま何が起きているかを知った際には、とんでもないご褒美や衝撃が待ち受けていると期待してしまう。しかし、現実はむしろ逆だ。閉ざされた空間で、ひとりで考えていると夢を見るようになるのかもしれない。私はどこかの国のお姫さまで、王子様と出会い、ここから私を助け出してくれると。

そんな女性の中にある少女のような気持ちを少し皮肉るように、うまく利用して物語に仕上げ、今では真似できないようなクラシックだけど新しい切り口の物語に仕上がっている。

主人公と同じく、読者までもが大事なキーワードを逃さないように、むしろ主人公より先に状況を理解してやろうと躍起になって本を読み進めるだろう。だからこそ尚更あっというまに終わってしまうのかもしれない。

ヨーロッパの修道院などでは昔から男児に対して性的な対象として見ることがあった。そういうキャラクターがこの本の中にも出てくるが、ロリコンともゲイとも違う、むしろ最も純粋で美しいことのように描かれている。いま読むととても不思議だが、それによりそのキャラクターの性格が一気に際立ち、輪郭を持つのが面白い。

作者であるダイアナ・ウィンジョーンズは日本だとハウルの動く城の作者としての印象がとても強いが、毎回異なるタイプの物語を巧みに描く。

それにしても囚われていた主人公は一体どこの誰だったのだろう。

ダークホルムの闇の君

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まず読み終わった感想を言わせて欲しい。なんて読み難い本なんだ。


内容や設定などは他に見たことないほど斬新で、さすがダイアナ・ウィン・ジョーンズさんといった感じなのだが、日本語訳があり得ない角度で酷い。きっとあえて日本でもあまり日常で使われていない言葉を選んでチョイスしているようだが、難しすぎる。私自身、色々と古い本も読んできたがこんなにも言葉を理解するのが難しく、読み進めるのに不安を感じたことはない。まるで日本語に訳された古文のようだ。

さらに、理解を阻む要因となっているのが、登場人物の多さだ。挿絵もほとんどない状況で、最初から覚えるのが不可能なほど普通の人間ではない、様々な特徴や肩書きをもつキャラクターが続々と登場する。誰が誰だかメモをとって早見表を作らなければ名前と人物を一致させることは至難の技である。主人公であるダークの子供がグリフィンだということを理解するまでにしばらくの時間を要したくらいだ。どのキャラクターが重要で頻出頻度が高く、名前を覚えなければならないのか。そこの見定めにはセンスが必要になってくる。逆にここまでユーザーフレンドリーじゃない設定は海外だから許されるのだろう。日本だと編集者が指摘して人数が減るか、名前を出さないか、覚えやすい名前に変えるか、何らかの処置がされると思われる。

また、難しいことに、内容がビジネス社会の仕組みについても含まれている。つまり、商いの仕組みを軸にして物語が展開されるので、社会人なら自ずと理解できるが、小中学生にはまず何が起こっているのか、何が問題なのか、事態に気付けないだろう。

だからこそ、この3つの難点を超えたときに得られるこの本だけの面白さは格別だ。読み終えたときに、妙な達成感があり、高揚感すら感じた。

まずは難解な登場人物の名前とどこの誰なのかを覚えることさえできれば、すっと読み進められるだろう。オススメする。

この本で印象的だったのは、会話のうまさだ。主人公である魔術師ダークの子供達の話す言葉は、まるで目の前で見ているかのごとく自然で、気持ちいいほどすっと入ってくる。わざとらしさがまったくなく、相手への深い感情まで言葉から感じられるくらいだった。これはむしろ翻訳者の手柄かもしれないが。

もしも魔法世界への体験ツアーに行けたらという風変わりなテーマを、テンポよく、良いラインの伏線を張りながら、会話で状況を表して展開する。最後はこのツアーを何とかやり遂げて終わりなんだろうと、読者は最初から分かって読んでいる。つまりゴールはひとつなのだ。だからこそ、飽きずにずっと緊張感を保つには、次々と事件や衝突が起きないと緊張感が保てない。実に設定で満足せず、よく考えぬかれた作品である。

残念なのは、間違いなく小学生にはこの本は読めないことだ。

メッセンジャー 緑の森の使者

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どこか人里離れた森の先にある、迫害された人たちが集まってできた村を舞台にして物語が展開される。


何とも言えない不思議な魅力のある作品だ。牧歌的でありながら、偽善的ですぐに崩壊しそうな危うさを含む。どこか新興宗教の人たちの集団生活を見ているような感じだ。現実と違うのは森が意思をもっており、そこを通ろうとする人を容赦なく抹殺してしまうことだ。

その森を自由に行き来することができるのが主人公の男の子。タイトルの通り、村では中と外の世界を繋ぐメッセンジャーとして活躍している。村では誰もが何かしらの役割を与えられ、活躍しているという設定だ。

文章は分かりやすく、すぐに読み終えることができる。

ラストは多少そっちかぁと思うとこがあると思う。ただ、自然の厳しさや神秘さ、人々の持つ原始からの恐れのような部分をうまく取り入れており、詩のような世界観だった。

結局、災いの元凶ともいえる、トレードの元締めは、どのような能力を持ち、何を考えていたのか気になる。彼も何かしらの魔法が使えたのだろうか。いや、ここでは魔法ではなくハンター×ハンター鋼の錬金術師で出てくるような能力に近い気がする。

特にトレードには、手に入れたいものとそれに見合った対価、犠牲を払わなければならない。それは悪魔の契約なのかもしれない。契約することで、ある種の特別な力を得て、願いが叶う。

まさにラストがそうだった。何かを得るには何かを失う。

アメリカの作家ロイス・ローリーは人生における哲学や人間の力の限界、人々を惑わす本来必要ではないはずのガラクタ、自然への畏怖のようなものを美しく伝えたかったのかもしれない。

嵐の王 3 伝説の都

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長い冒険を終えた気分だ。ようやく長い悪夢から目覚めた気さえする。三部作のラストは前作である天空の少年ニコロに近い。世界を救う、変えて、みんなまたそれぞれの道に進み出すというキレイな終わり方。

そこまでには数々の修羅場や生命を賭けたシーンの連続だった。まさにノンストップ。登場人物は全員、誰がいつ死んでもおかしくない状況だった。

オチをざっくり言ってしまうと、嵐の王である童子が第三の願いを使って魔人を消し去り、世界に平和が訪れるというだけのこと。ただそれだけのことなのに、どうしてこうもハラハラと手に汗を握らせられるのか。何人もの人間が無惨に死に、何人の魔人が刻まれ死んだのか。

そもそも主人公ターリクの片目はいまいる世界とはもう一つの本当の世界を見る力以上のことはなかったし、ターリクの弟ジュニスはどうなったのか、魔人たちは何のためにどうやってガラスの大地を切り取り浮かして持って行ったのか、魔人は消えても魔物は存在し続けることは問題ないのか、アマリリスは椅子に座り何を願おうとしてたのか等、疑問に思うことはありすぎるくらいある。何たってあんなに大風呂敷を広げて、常にissueと謎を振りまき続けたのだから仕方ないことだ。

色々と荒削りで、あの設定やシチュエーションは必要だったのかと思う部分もあるが圧倒的に面白かった。海外ドラマを全シーズン見終えたくらいの高揚感と達成感を味わえるはずだ。

常に話が重く、終末観が漂う殺伐さに、読み進めるのが辛いことも多々あったが完走して損はなかった。むしろこれでようやく安心して眠れそうだ。

一つ残念なことがあるとすれば、これで作者であるカイ・マイヤーさんの本を最新刊まで読み終えてしまったことだ(2017年9月現在)。

つまりもうこれ以上の新作がなく、過去の本を漁るしかなくなった。厳密に言えば、カイ・マイヤーさんは割と筆が早く、本国ドイツではこの嵐の王の後、すでに数冊新作をリリースしている。それもかなり面白そうなシリーズものだ。ただ、日本での和訳及び出版がされていない状況なため、楽しむことができない。

どうか、早く新作を日本で読めるようにしてほしい。

第三の願い風に言うならば「願わくば新作よ早く発売されし」