児童文学概論

ヤングアダルトジャンルを読み、感想を示します。個人の駄メモです

足音がやってくる

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ニュージーランド出身の作者マーガレット・マーヒーの1982年に発売された初長編にして、イギリスのカーネギー賞を受賞した作品。

かなり昔の作品ということになるが、さすがといったところ。

隙がなく、子供がメインの作品だが、イライラさせられることもなく、大人でもなかなか楽しめた。

バーニーという少年が不気味でイカれた魔法使いの叔父に目をつけられ、どんどん彼のそば、自宅に近づいてくるストーカー的恐怖心を煽る演出がされている。

一応ミステリー作品であり、最後には色んな家族の謎が判明するシーンはベタな部分もありながらも目を丸くする事実もあり、非常に楽しかった。

昔の家庭、家族というのは、今とは違い、非常に固苦しく、規律の中で存在していたのかなと改めて思わさせられた。

勝手気ままな自由なタイプの人間は嫌われ、みんな心のどこかで羨ましく思いながらものけ者にされたのだろうか。

魔力を封印した結果、自分からなにも魅力や取り柄さえなくなったひいおばあさんのように、個性や生き方についてみんな誰の目を気にすることなく、咎められる必要なく、自由であるべきだと伝えているように感じた。

コール叔父の最後の牙の抜け方は腑抜けたというより、幼返りして可愛いという印象を受けた。現実ではあり得ないが、これも愛嬌だろう。

マディガンのファンタジア 下 未来への綱わたり

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作者マーガレット・マーヒーの本国であるニュージーランドではテレビドラマ化もされたという当作品。

まず読み終えた感想としては、なかなか面白かった。

オズの魔法使いに少し似た作品でもあった。ただ主人公の女の子であるガーランドの言動が理解不能で、ずっとイライラを紛らせながら読む羽目になるだろう。

母親マディとの関係から新リーダーのイーヴスとの関係、タイモンやリリス、ブーマー…なんでこんなに仲良くやれないか、思いやりがないのかと呆れてイライラさせられること間違いないはずだ。

ただ、それは物語にハマっている、期待している証拠でもある。ドラマや映画が映るテレビに向かって文句を言っているに等しい。キャラクターに魅力があることは認めざるをえない。日本でアニメやゲーム化してもいい作品になったかもしれない。

物語は面白いし、最後はテレビドラマ向きな感じに悪者がいい奴になって、悲しいけど前向きなハッピーエンドで終わる。

ハラハラもさせられる、冒険ものとしては設定も珍しく、良作と言えるのでないか。



アンランダン 下 ディーバとさかさま銃の大逆襲

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不思議な裏ロンドンでの少女の活躍を描いた作品の下巻。

まずは率直になかなか面白かった。とても面白かったわけではなく、なかなか面白かった。

外人特有のユーモアというかスカした感じが気持ち悪い部分もあったが、想像力の面で言うとかなり素晴らしいとも言える。

ルイスキャロルのアリスのオマージュと言えばそれまでだが、それでもしっかりこの分量をまとめるのには力が必要だ。

裏ロンドンの7つの秘宝を1つずつRPGのように集めていくというシーンで、中をすべて飛ばしていきなり7つ目のさかさま銃を取りに行くという流れは気持ち悪くて本当に寒気がした。

正直、いつの間にかザナに変わって主人公となったディーバの発言は、あまり考えられたものでなく、作者のチャイナ・ミエヴィルさんの思考にそった感じで、キャラクターとして生き生きしていたかというとそうではない。常に伏線を張り、回収するという作業に終始して、キャラクターを深く描けず、物語としての余裕がなかったのが残念だ。

その分、見た目にも強烈で分かりやすいキャラ付けに頼ったのかなという印象。

アリスとナルニア国と映画ドラえもんシリーズを足して割ったような作品。

作者のチャイナ・ミエヴィルにはイカれた才能はないが、頭が良く、プロデューサーとしては適した方な気がする。

歴史に残る作品でもないし、語られる作品でもない。ただ、久々に想像力を刺激してみたい方で、時間と忍耐がある人には読んでみてほしい。

マディガンのファンタジア 未来からのねがい 上

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5年前の2012年に76歳で亡くなられたマーガレット・マーヒーさんの作品。

世界崩壊後の世界を舞台に、サーカス団であるマディガンのファンタジアが旅し、目的を叶える様子を描いている。

ワクワクする設定であり、おばあちゃんである作者が書くだけあって、まったく浮つかないのも好感触。出来るなら、世界崩壊について、フィロソフィーやアイロニー、謎と真実など詰め込みたくなるものだか、今のところまったくそこには触れられない。

目的地は決まっているが、一章ごとにクセのある村や町に立ち寄り、そこで起きる厄介な出来事をクリアにして、また次の町に向けて出発するという、まるで水戸黄門ドラクエを見ているような作品だ。

物語の鍵を握る未来から来た3兄弟とその3人を捕まえようとする2人の大人。ただの牧歌的な物語ではなく、未来から来たこの5人+不思議な力を持つとされるペンダント、タリスマンが絡まることで、クラッシックな文体なのに、ハイブリッドな今時のヤングアダルト作品になっている。

そのバランス感はとても興味深い。次の下巻でどんな秘密が明かされ、未来が待つのか。この上巻は長いフリであることを切に願う。きっと期待していいだろう。




アンランダン ザナと傘飛び男の大冒険 上

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タイトルのアンランダンは、否定を表すアンにロンドンの正しい発音ランダンを合わせ、ロンドンではない、つまりもう一つのロンドンという意味を持っている。


感想から言うと、なかなか面白かった。どこか不思議の国のアリスを読んでいるような個性的なキャラクターが出てきて物語に花と不思議を添えてくれる。

ニューヨークタイムズハリー・ポッター以降もっとも想像力にあふれたヤングアダルト小説と称したのはあながち間違いではないと思う。

裏ロンドンに迷い込み、奇妙な世界だけどなぜか惹かれ、ほっとけなくてつい干渉したくなる感じは映画版のドラえもんを見ているようでもあった。むしろ、すぐドラえもんとして映画化できるくらいの脚本だ。

この本で面白いのは、主人公はJCであるザナだとばかり思っていたら、親友のディーバが後半の主人公に変わっていたことだ。こんな編成はあまり見たことがない。最初のび太くんが中心なのに、途中からスネ夫がメインに代わるという感じは新しく、斬新に感じた。

イングランド出身の作者チャイナ・ミエヴィルは相当ヤングアダルトを読み込んで研究してきたのだろう。名作のオマージュから過去のパターンからの脱却を懸命に努めている様子が見受けられる。

割と読み進めるのが辛く、その世界に入るまで時間のかかる作品が多い中、このアンランダンは確かに優秀な作品だと言える。あとは下巻でどんな大どんでん返しを起こせるかだ。

敵であるスモッグに対してどこまで哲学的に掘り下げられるのか、少女たちは何につき動かせれて、成長を遂げるのか。珍しく期待して下巻が借りられそうだ。




天空の少年ニコロ 3 龍とダイヤモンド

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ネタバレします。

天空の少年ニコロ三部作のラストを飾る締めの巻。読み終わった感想としては長かった。天空の村から始まり、中国を旅しながら龍を探し、ラストは世界を救うというどこかで見たような展開に。そう、これはカイ・マイヤーさんの前作である「海賊ジョリーの冒険」と同じオチなのだ。

言葉にも原初の混沌という前作のキーワードとも言える単語が今回も登場するし、最後は男の子と女の子が力を合わせてラスボスをやっつけて世界を救った。

面白いは面白いけど違うオチや話を見たかった。とりあえず、やはりキャラクターはとても魅力的だった。違和感がなく、ブレないし、徐々に魅力が増すように繊細に描かれていくのはさすがの一言。ただ、月姫だけは作者自身もどう扱っていいか分からなかったような気がする。どうも1人感情がブレるというか、はまっていない感じが最後まであった。それはきっと逆に最初からキャラクターを意識し過ぎたせいだろう。中国のいわゆる仙女をトレースしすぎたせいで、その枠から抜け抱けず、ドイツ人であるカイ・マイヤーさんからしたら崩せなくなった可能性がある。他のキャラは架空の要素が大きかったので自由に動き回れたのに対し、月姫だけはつまらない感じだった。

一キャラクターだし、なにをそんなに責めるのかと思われるかもしれないが、もちろん理由はある。それはニコロと呪いによって愛に落ちるという重要なファクターを握り続けたからだ。1巻からのこの要素がまさか3巻までひっぱられ、最後はあっけなく終わった。さっさと月姫を殺すなり、真実の愛として叶ったりすればいいのに、長々と性描写を想像されるシーンまで交えながらズルズル進む。本当に気持ち悪い。実に不快だ。セフレみたいな感じだった。

童貞くんが綺麗なお姉さんと魔法の力で両思いになり、初めてエッチして舞い上がり、魔法が解けるのを必死で認めない感じで3巻が終わった。その間に龍が出てきて、巨人が出てきて、盤古エーテルに支配されて、世界が救われた。

もうこんな作品は2度と書いてくれるなとミザリー的に作者を監禁して説教したい気分だ。

もちろんそれは冗談だか、個人的には魅力的な世界観に、良いキャラクターを作れていただけにストーリーがさらに伴っていれば文句なく最高の作品になれたのにと残念でならない。

ただ、最後の難しい世界の終末や混沌とした地獄のような戦場を描いたシーンはさすがに素晴らしかった。荒削りながらも全ての伏線も基本的には回収したし、同時進行にいくつものストーリーを進める手腕は賞賛されるべき。

ニコロは多少エヴァのシンジ君的な部分もあったように思う。基本的にヤングアダルト作品は、思春期の葛藤から成長を描きたがる。ただ、個人的にはそういうあからさまなのはもう求めていない。

また、今回の作品で興味深かったのは、1巻以降、普通の村人が一切登場しなかったことだ。ずっと名前のあるキャラクターたちだけで話が進んでいった。1巻目にはあったニコロと普通の民の会話や龍の居場所を探る様子なんかはとても物語をリアルなものに感じさせてくれたし、ハラハラもした。もっと一般人も巻き込みながら展開できればより奥深い物語になったのではないだろうか。

それにしても最後あっけなかった。ラスボスである盤古は世界を滅ぼす天地創造主だったはずが、何の意思も感じられない大きめの巨人でしかなかった。また、心臓が体の割に小さすぎるのには呆れるよりも笑った。本当にあれが最適だったのか疑問しかない。ゲームのFF6みたいに1度世界を崩壊させて、そこから盤古を倒して世界を救うという展開や、24的に世界崩壊まであと残り3時間とかそういう軸の中で展開させても面白かったんじゃないだろうか。

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フェイキンのキャラクターは最後まで呪いが解けなかった、いや本人の意思で解くのをやめたのだろう。最後、小道を登るときにつまずき、罵しる声が聞こえたのは、以前と変わらず動きづらい着ぐるみ姿だったからに違いない。

アルテミス・ファウル 北極の事件簿

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ネタバレあります。

まず最初に、こちらは1巻かと思って間違えて借りてしまった。読みながらなんか知らない言葉がどんどんでてくるなと思っていたらまさか2巻だったとは。表紙にナンバリングがあるのかないのか分かりづらく、最後の広告欄で1巻だと確認したはずだったのに失態。

もちろん、1巻を読んでなくても状況は理解できるし、むしろもう1巻でどんな出来事が起こったかさえも知ってしまった。

そして、そろそろこの本の感想を結論から言おう。合わなかった。むしろあまり好きじゃないかも。

思ったよりも子供向きだと感じた。読むまでのイメージは割と大人向きで、中身も難しい言葉が多いにも関わらず、キャラクターの言動がいちいち鼻につくほど大げさで、どんどん嫌いになってしまった。

特にルート司令官の言動はありえない。サウスパークを見てるのかと思うほど、いちいち大げさでわざとらしい。

しかも見なければ良かったと後悔したのが、裏表紙をめくった最後のページに堂々とプリントされた著者のポートレート。たまたま読んでいる途中で目に入った瞬間、ミスタービーンみたい!って思ってしまい、それからもう内容のつまらなさと相まってどんどん腹が立ってしまった。

人を楽します、驚かすのが好きそうな好奇心に満ちた作者オーエン・コルファーさんのどう?面白いだろ?って目が、私の中のハードルを上げ続けてしまった。

答えは面白くないだ。もちろん大人が読むにはという意味で。子供なら楽しめるだろう。このブログのタイトル通り、子供向けだろうが大人が読んでも楽しめて、学ぶことを見つけるのが目的である。

主人公のアルテミスは中学生?ながら天才犯罪者であり、バトラーという屈強で従順な執事を率いている。この2人の関係性やキャラクターは当初とても魅力的に感じたが、思ったほどではなかった。まず、アルテミスが全然天才じゃない。もっとコナンくんばりに頭脳明晰かと思っていたら普通に少しだけ大人びた中学生だった。全く活躍しない。最高のヒントももたらさない。設定が嘘になってしまった。前回はすごく頭脳を使って活躍したようだが、今回は出番がなかったようで残念だった。

正直、読んでいるうちに、勝手にアルテミスとバトラーを黒執事のセバスチャンとシエルとして脳内変換して動かしていた。まあだから思い通りにならず、これほどまでに失望させられたのかもしれないが。

特に不満なのが、最初、アルテミスの父親が難破して誘拐されてしまい、身代金を要求するロシアマフィアとどう戦うかって話だったから面白そうと思ったのに、実際はその部分は最後にちょちょっとしか描かれない。しかも、あっさり解決して、父親と息子の愛情なんかも皆無だった。父親をアルテミスは何が何でも助けたいという当初の設定が崩れていた。大部分は地下世界の反乱が描かれて、さほどハラハラもせず、裏切りによりドンデン返しにこだわった作者の意図が見え見えで興ざめしてしまった。

イギリスの作品はジョナサン・ストラウドさんを通して出来がいいと思い込んでいたのも災いしたのかも。ただ、一つ、この評価が私だけの厳しいものでないことをお伝えもしたい。

すでに本国イギリスでは8巻+外伝3冊が出版社されている。しかし、日本では5巻までしか訳されておらず、すでに時間の経過から見て今後発売されることもないだろう。これが何を意味するか当然わかると思う。面白くなくて、翻訳しても売れないから出版社も意気揚々と権利を買って日本で発売してきたが途中で放棄したのだ。

まあ他の巻を読んでないから詳しくは説明も確認のしようもないが、遠からず日本の読者にこれ以上求められてないということは事実だろう。