児童文学概論

ヤングアダルトジャンルを読み、感想を示します。個人の駄メモです。ネタバレあり要注意。

嵐の王 3 伝説の都

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長い冒険を終えた気分だ。ようやく長い悪夢から目覚めた気さえする。三部作のラストは前作である天空の少年ニコロに近い。世界を救う、変えて、みんなまたそれぞれの道に進み出すというキレイな終わり方。

そこまでには数々の修羅場や生命を賭けたシーンの連続だった。まさにノンストップ。登場人物は全員、誰がいつ死んでもおかしくない状況だった。

オチをざっくり言ってしまうと、嵐の王である童子が第三の願いを使って魔人を消し去り、世界に平和が訪れるというだけのこと。ただそれだけのことなのに、どうしてこうもハラハラと手に汗を握らせられるのか。何人もの人間が無惨に死に、何人の魔人が刻まれ死んだのか。

そもそも主人公ターリクの片目はいまいる世界とはもう一つの本当の世界を見る力以上のことはなかったし、ターリクの弟ジュニスはどうなったのか、魔人たちは何のためにどうやってガラスの大地を切り取り浮かして持って行ったのか、魔人は消えても魔物は存在し続けることは問題ないのか、アマリリスは椅子に座り何を願おうとしてたのか等、疑問に思うことはありすぎるくらいある。何たってあんなに大風呂敷を広げて、常にissueと謎を振りまき続けたのだから仕方ないことだ。

色々と荒削りで、あの設定やシチュエーションは必要だったのかと思う部分もあるが圧倒的に面白かった。海外ドラマを全シーズン見終えたくらいの高揚感と達成感を味わえるはずだ。

常に話が重く、終末観が漂う殺伐さに、読み進めるのが辛いことも多々あったが完走して損はなかった。むしろこれでようやく安心して眠れそうだ。

一つ残念なことがあるとすれば、これで作者であるカイ・マイヤーさんの本を最新刊まで読み終えてしまったことだ(2017年9月現在)。

つまりもうこれ以上の新作がなく、過去の本を漁るしかなくなった。厳密に言えば、カイ・マイヤーさんは割と筆が早く、本国ドイツではこの嵐の王の後、すでに数冊新作をリリースしている。それもかなり面白そうなシリーズものだ。ただ、日本での和訳及び出版がされていない状況なため、楽しむことができない。

どうか、早く新作を日本で読めるようにしてほしい。

第三の願い風に言うならば「願わくば新作よ早く発売されし」

七つの封印 3 廃墟のガーゴイル

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テレビゲームにしたら面白そうなストーリーだった。七つの封印シリーズの三作目。毎回、実は登場人物のキャラクターや個性を持ってストーリーを引っ張るということはあまりなく、敵を中心にブンブンとストーリーが激しく展開される。

だから基本的には防戦から反撃に転じるというテンプレとなっている。まあ子供対モンスターなのでそのパターンが王道であり、ここから外れたストーリーを描けば世間からは斬新だと高く評価されるかもしれない。

今回対峙することとなる騒動の相手はガーゴイルガーゴイルと言ったらもっと小さくて可愛らしいものを想像していたら全然違っていて驚いた。

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もはやこれは魔人であり、知っているバーティミアスのようなずる賢いタイプではなかった。ただ今回はガーゴイルが一体ではなく数え切れないほどたくさん登場し、全員が牙をむいて襲ってくるわけではない。むしろ、あまり攻撃はなかったくらいだ。

ガーゴイルというものは元々魔除けであり、雨どいを伝ってきた雨水を壁から這わすのではなく、少し遠くに吐き出すだすために工夫された彫刻だ。つまり、ガーゴイルを作る彫り師が存在するわけで、その彫り師との物語を含めた不思議な話となっている。

襲われて撃退というベタな作品をカイ・マイヤーさんが子供向きとはいえ書くはずがない。らしさ溢れる、少し胸がほっこりする作品だった。タイトルには廃墟とあるが、厳密にいうと廃墟ではない。もっと文化的、歴史的建造物なのでもう少し違った言い方が欲しかった。

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最後にこの写真を見てほしい。たまたま見つけたフランスのある場所の彫刻だが、前作の悪魔のコウノトリに、今回のガーゴイルが並んでいるように見える。これは偶然なのか、それともよくある組み合わせなのか、とても有名な彫刻なのか…詳しくは知る由ないが、とても興味深く、愉快だ。

不思議な尻尾

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表紙から完全に女児向けだなと思いながらも設定に惹かれて読んでみた。

その設定とは、その犬がシッポを振ると願いが叶うという割と単純なものだ。だからこそ、このベタな設定をマーガレット・マーヒーがどう料理して、何を伝えようとするのか気になった。

読み終わったいまの感想としては、まあまあ、ふ〜んといったところ。正直、特に盛り場もなく、少しだけ教訓が含まれていた程度だった。普通の日常の中にこそ、魔法のような驚きに満ちている。当たり前だと思っているからそれに気づかないだけだということ。

最後の方はなぜか、虎舞竜のロードの一節が頭の中で鳴っていた。「何でもないようなことが幸せだったと思う」と。厳密に言うと「幸せ」ではなく、「驚異、特別」が近いのだろうが。

最後のオチは何とも可愛らしく幸せな気持ちにしてくれて、つい犬を飼いたくなった。

途中ずっと願いを叶えることに調子に乗った主人公がどんなバカをやらかし、イライラハラハラさせられるのかずっと気になりながらページをめくっていたが、心配は無駄だった。良い子すぎてむしろありえないだろうという主人公のお陰でトラブルは何も起きなかったからだ。のび太くんとは違うのだ。物足りないといえばそうかもしれないが、個人的にはこれで十分だ。

国際アンデルセン賞を受賞し、マーガレットマーヒーさんの遺作となったこの作品。多くの作品を発表し、おばあちゃんとなったマーヒーさんが最後まで書きたかったのは、子供が安心して読める作品だったのだろう。宮崎駿さんとも同じだ。

子供向けなのは間違いない。大人なら1時間あれば読み終えるだろうし、難しいこともないのですべてさらっと頭に入ってくる。たまにたまごボーロを食べるとほっこり美味いように、たまにはこういうまっすぐな作品を味わうのも新鮮であり醍醐味だ。

七つの封印 2 悪魔のコウノトリ

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個人的に大好きなカイ・マイヤーさんの児童向けの作品。ただし、相変わらずダーク。日本の児童向けのファンタジー小説とはレベルが違う。日本の児童向けの作品は、怖いと言ってもドラえもん映画程度で、大人からすると全く怖くない。むしろイラつかされるのが普通だ。だって子供向けだから。

だが、この七つの封印は全く違う。それはあのカイ・マイヤーが描いているからに他ならない。子供はむしろ読まないほうが良いだろう。なぜなら非常に怖いから。今回このダークファンタジーに登場するのは、地獄から召喚された悪魔のコウノトリ。面白いのが、主人公の住む屋敷の中から一歩も外に出ないで物語が全て展開して終わる。悪魔のコウノトリからずっと屋敷内を逃げ、その原因を考えて破壊する。それだけの内容なのに、コウノトリが強いうえに不気味すぎる。対峙すればくちばしで一突きにされて殺されること間違いないという状況のなかで、ひたすら逃げるしかないというホラー映画さながらの展開。

まさに悪夢のよう。相当テンポが良いので1時間半くらいでサクッと読める。

ちなみに感想を書いてなかったが、もちろん、七つの封印一巻の大魔術師の帰還もすでに読んでいる。

その時から、敵が子供相手だろうと容赦なく殺しにかかってくることに驚き、度肝を抜かれた。大体その辺の捕まったらどうされるのかという部分は曖昧にするのがセオリーだ。鬼ごっこみたいに、捕まるのはなんか怖いけど、捕まったからといって何もないみたいな。そこが、このカイ・マイヤーさんの七つの封印は違う。捕まったら殺される。それが明確に表現されて描かれるからこちらとしてもヒヤヒヤする。

大人が読んでも、背筋がヒヤッとする良作だ。

ロックウッド除霊探偵局に通じる面白さがある。感想をブログとして書いていないが、このロックウッド除霊探偵局は最高に面白い。読んできた児童文学のなかで1番面白いと言ってもいいくらい個人的に気に入っている。

今のところその感想を書く予定はないが、気になる方は読んでほしい。絶対に後悔させないことを約束する。

嵐の王 2 第三の願い

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ドイツのファンタジー作家カイ・マイヤーの三部作のニ冊目。

タイトル通り、魔人イフリートが持つ三つの願いを叶える力。そのナゼか失ってしまった三つ目の願いを叶える力がカギとなって描かれる。

振り返ってみると相変わらず面白かった。強烈な性描写や残酷な殺人シーンは容認することはできないが、ストーリーはそれを凌駕してしまうくらい面白い。

不思議とずっと映像として頭の中に物語が浮かびながら展開する。本の中の文字と映像が、常にリンクしながら進む気持ち良さがある。それだけしっかり場面を描き、キャラクターを作り上げているから理解しやすく、同時進行可能なんだと思う。

まさにハムナプトラとアラビアンナイトが融合した作品だ。日本人にとってはどちらも慣れ親しんでいるので、この嵐の王シリーズは受け入れやすいはず。

相変わらず、魔人と嵐の王軍団が戦うシーンはハラハラさせられる。フィクションだと分かってはいるが、心のどこかで魔人に対する深い恐れを抱いているからだ。しかもこの魔人は残忍な上にかなり賢い。敵にまわすにはこれ以上最悪なやつはいないだろう。

途中のジュニアとマリヤムの性行為シーンは本当に気持ち悪かった。不快。まったくウンザリだ。かつての兄の恋人と寝ることで、物語に深い何かが生まれるのはわかる。だからこそ、そんな味の素に頼らずに、性を絡めずに、文章とアイデアで面白くしてほしい。漫画ワンピースやドラゴンボールみたいに、どんな魅力的でセクシーなキャラが登場しようと性行為を直接描くことはない。

こんな意見を言っていることは理解されないかもしれないが、本質がブレるのがもったいないし、これにより子供が読めなくなるのが惜しい。

本当に誰にもオススメしたい、日本人には絶対に描けない最高に面白い本だからあえて言わせてもらっている。

全体的にラストに向かって無理やりな感じもあるけど、走り始めた。あとはラストダンジョン、幻の都スカラバプールに行き、そこで真実を知り、魔人とバグダットで最終対決か。

三巻を読んだ後、また統括して感想を示したいと思う。

嵐の王 1 魔人の地

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ドイツのファンタジー作家カイ・マイヤーの三部作の一冊目。

毎回翻訳のレベルがとんでもなく高く、こちらもかなり引き込まれる内容だった。

中身の感想を言うと、まず面白かった。世界観としては進撃の巨人に似ている。魔法の暴走によって生まれた魔人によって人類は駆逐されそうになり、街の周りに壁を築きその中で生きていた。街の外の砂漠には魔人がいて、誰も生きては帰れない。そのまんま進撃の巨人だ。

そこに舞台やトピック的に映画ハムナプトラを足したのが、この魔人の地と想像してくれて大丈夫。

どうしても言いたいのは、46〜50ページという始まってすぐに、主人公の男ターリクと謎の美女サバテアの情事シーンが官能小説かと見紛うほど叙情的に生々しく描かれる。なぜか図書館で普通の本棚ではなく、書庫に入れられていたわけがわかった。

まったくこんなエロいシーンは必要ない。前作の天空のニコロでもそうだったが作者のカイ・マイヤーは隙あらば関係を持たせて、そこでの繋がりを引っ張り続ける。本当に不快だ。本当にいらない。こんなシーンが何のギミックになるのだろうか。大人の浅はかなシーン強調のアイテムのために、せっかく面白い作品が18禁になってしまっては、もったいなさすぎる。書庫にしまわれて、誰の目にもつかない。アメリカのように、いっそのことカットするなり、想起しない別の表現に変える工夫が必要だと思う。

大人向けの本ではなく、児童文学の中で突然そんなシーンが出てくるのだから、いい歳の大人が読んでいても不快だった。なおさら、若い子が読んだら悶々としてしまうだろう。

ちなみにタイトルに嵐の王とあるが、最後にちらっと出てくるだけで、次回からの本格登場になる。なぜ一冊目でこのタイトルにしたのか不思議だ。アマリリスの眼とか、天井都市とかの方が良かったのでは。

表紙に描かれた男性はどうみても映画ハムナプトラのリック・オコーネルだ。内面のキャラにしろかなり似ている。

内容はかなりダークというか、ずっと緊張の糸が途切れることがない。次に何が起こるのか、物語のスピードについていくのに必死になる。ただ、展開的にいつものカイ・マイヤーっぽい部分があるので、どのように落とすのか見ものだ。またこのパターンか、と言うしかないのか、新しい進化を遂げたと言えるのか。まずは2巻目を読んでまた判断したい。

とりあえず、もしこの作品が気になったなら進撃の巨人が好き、ハムナプトラやアラビアンナイトのような世界観が好きな人には強くオススメできる。ただ最初に男女の交わりのシーンがあるので、そこはあらかじめご了承願いたい。

仮面の街

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なぜか千と千尋の神隠しを彷彿とさせる作品。

魔女のグラバは湯婆婆そっくりだし、ロウニーは千のようだ。仮面というものを物語のフックにしながらテンポ良く物語は進み、表現は難解で読み辛いけどサクサクと読み進んでしまう。

なかなか良作だと思う。本作の題材である仮面というと映画「マスク」を思い出す。人は皆、社会の中で見えない仮面をかぶり、TPOに合わせて自分を演じているという台詞が脳をよぎる。

ゴブリンの劇団に、街のどこかに生きているが見つけることのできない行方不明のロウニーの兄であるロウワンの探索、街に迫り来る洪水、先輩だがグラバを裏切るヴァスの想いなど、同時進行で様々なポイントが行き交う。

てんこ盛りだが、キレイに一本の線上に紡がれている。アメリカで教師をしていた作者ウィリアム・アレグザンダー初の長編デビュー作にしていきなり全米図書賞を獲得したのも頷ける。

初めてにしては出来過ぎなくらいストーリーが良く、特に世界観は抜群に素晴らしい。申し訳ないが、作者がアメリカ人だとは信じられない。まだこうした真面目なクラシックだが面白い作品をかける大人がアメリカにいたなんて、その事実だけでも実に信じ難く愉快だ。

作中のゴブリンは一体どんな存在なのか、どうしてゴブリンになったのか、不老不死なのか、色々気になる。

スピンオフとして「影なき者の歌」という作品もあるようなのでぜひ読んでみたいと思う。